山県郡医師会学術講演会 3

 今回は慢性前立腺炎です。前立腺に炎症が起こり、会陰部や骨盤部の様々な部位に痛みや不快感が生じたり、頻尿、残尿感、尿意切迫感などの排尿症状が出たりします。慢性骨盤痛症候群とも呼ばれます。実は前立腺炎には急性前立腺炎というのもあります。これは明らかな細菌感染が原因となり、高熱、排尿痛、排尿困難、などが起こる疾患で、慢性前立腺炎とは異なります。
 慢性前立腺炎の原因は、一言でいうと「不明」です。細菌・ウイルス感染、男性ホルモン低下、骨盤内の血流低下、自己免疫、骨盤底筋・神経調節の異常、前立腺への尿逆流、炎症性物質の蓄積、心身症、などが推測されています。おそらく様々な原因があるのでしょう。ただし個人的には「前立腺への尿逆流」「炎症性物質の蓄積」は確実だろうと思っています。時に、小学生~高校生がこの疾患で受診しますが、話を聞くと尿を我慢したというエピソードが多く、尿の逆流が原因と考えています。また成人では腎に結石がある方が多い印象があり、高尿酸血症との関連を考えています。高尿酸血症では、痛風が起こったり、腎結石が生じたりします。尿酸結晶は炎症を起こす物質であり、慢性前立腺炎に矛盾しないと思っています。
 当院では、①症状があること、②検尿が正常であること、③超音波で腎・膀胱・前立腺が正常であること、④直腸診にて前立腺を触ると痛いこと、で慢性前立腺炎と診断しています。超音波で形態が正常であるのを確認するのは、過去に20歳前後での前立腺肉腫という恐ろしい疾患を経験したからです。また中高年で症状が長引く場合には、膀胱癌が潜んでいないかを確認する必要があり、尿細胞診(尿の中に癌細胞がないかどうかを調べる検査)を行います。
 治療の中心は薬物療法です。当院ではレボフロキサシン(先発商品名:クラビット)とセルニチンポーレンエキス(先発商品名:セルニルトン)を多く使用します。中高齢者では前立腺肥大症の薬剤も使用します。漢方薬を使用することもあります。薬物療法以外では、前立腺マッサージを行います。これは肛門から指を入れて前立腺をマッサージし、血流を改善させるという治療法です。
 次回は過活動膀胱です。