膀胱がんについて:その2

 さて表在がん(正確には筋層非浸潤がん)と浸潤がん(筋層浸潤がん)は全く別なのでしょうか?

 表在がんの多くは、膀胱に再発しても表在がんのままですが、一部は浸潤がんに移行します。どのようなタイプが変化するのでしょうか?一般的には表在がんの中でも深いもの、細胞の悪性度が高いもの(顕微鏡で、細胞核が大きいとか、細胞の形がいびつだとか、細胞分裂の割合が高いとか、で判定します。病理検査といいます。)です。だけど、同じような悪性度なのに、一方は表在のまま、一方は浸潤がんに変わる、ということが起きます。これは、通常の顕微鏡で見ただけではわからない、何か違いがある、ということが想像されます。

 このような問題に対する研究はないのか?実は、その研究の一つを、私が大学院時代に行っていました。私のアイデアではなく、大学の先輩から続く研究でした。簡単に言うとこうです。膀胱粘膜にも血液型物質(おなじみのA型、B型、AB型、O型です)が存在します。そこから膀胱癌が発生した場合、膀胱癌の細胞表面にも血液型物質が存在します。細胞の悪性度が高くなると、この血液型物質が造られなくなる、というわけです。通常の病理検査ではわからない悪性度がわかる可能性があると期待していました。手術で採取した癌組織の一部を取ってきて、あるいは過去の手術の組織の一部を使って(過去の組織はパラフィンブロックという中に保存されていました)、血液型抗原が存在するかどうかを研究室で調べていました。本当に夜遅くまで調べていました。そして、この研究で博士号(医学博士)を取りました。ただし現在においては、この血液型抗原による悪性度判定は、言わば、すたれたようです。でもこのような、通常の病理検査以外での悪性度判定は極めて重要であり、他の方法での研究が進んでいるはずです。

 悪性度の研究も重要ですが、やはり早期発見が重要かと思います。その1でも述べましたが、最も多い症状は「無症候性肉眼的血尿」と言って、痛みを伴わない目で見てわかる血尿です。このような場合はすぐ医療機関を受診して下さい。膀胱がんの場合(それ以外の尿管がん、腎盂がん、そして腎細胞がんも同じですが)、治療しなくてもそのうち血尿は止まります。でも安心は禁物です。その後もがんは大きくなり、また出血します。

 一方肉眼的には正常で、検査で初めてわかる血尿もあります。尿潜血とか顕微鏡的血尿とかと称されるものです。この場合は肉眼的血尿に比べると悪性疾患の可能性は低いです。しかし教科書的には0.5%程度の悪性疾患の可能性がありますので、一度はきちんと調べておくべきでしょう。