山県郡医師会学術講演会 6
今回は前立腺癌に対する最近の薬物療法についてです。
ご存じの方も多いと思いますが、前立腺癌は現在男性で最も多い癌となっています。高齢化や食生活の欧米化などが主な原因とされています。またPSA(前立腺特異抗原)という血液検査が普及することで、見つかりやすくなりました。進行すると骨に転移しやすいのですが、腰椎に転移したための腰痛から判明する場合もあります。
診断はPSA検査異常や排尿症状、肉眼的血尿で疑われ、MRIという画像検査を行います。ここで異常があれば前立腺生検といって、前立腺に細い針を刺して組織の一部を取り、顕微鏡で癌があるかどうか調べる検査をします。
治療には、手術療法、放射線療法、内分泌療法、PSA監視療法があります。手術は今やロボット手術が中心となりました。放射線療法も大きく進歩しました。高齢の方や悪性度が低い場合は治療をせずに経過観察するPSA監視療法が増えつつあります。
一方進行した場合や手術や放射線療法を希望しない、あるいはできない場合に行われるのが内分泌療法です。これは体から男性ホルモンを無くする治療で、非常に有効です。問題は時間が経つと効果が無くなることです(ただし個人差が大きく、ずっと効果が続くこともあります)。この問題に対して新しい薬剤がどんどん開発されています。有効な抗癌剤も登場しています。さらに、遺伝子変異がある時に使用できる薬剤が追加されました(米国のアンジェリーナ・ジョリーという女優が自分の遺伝子異常を調べて、乳癌や卵巣癌になる可能性が高いとして予防的に切除手術をしたというのはご存じでしょうか?最近ではこの遺伝子異常が前立腺癌にも関連することが判明しました。)。そして免疫チェックポイント阻害剤(癌細胞を攻撃する免疫細胞のブレーキをはずす薬剤)が使用可能になったなど、前立腺癌に対する薬物療法においてはパラダイムシフトが起こっていると言っても過言ではありません。