山県郡医師会学術講演会 5

 今回は間質性膀胱炎・膀胱痛症候群です。と言ってもあまり聞いたことは無いと思います。尿が膀胱に貯まると下腹部が痛くなり、その痛みを避けるためにひどい頻尿になるという状態です。10万人中4.5人と稀で、女性は男性の5倍と女性に多い疾患です。この疾患が知られるまでは、検尿などの通常の検査では異常がなく、色々な医療機関を受診してもわからないという状況でした。私が初めて遭遇した(診断した)のが平成7年頃であったと記憶しています。
 原因は不明です。個人的には尿路上皮のバリア機能の破綻が重要と考えています。膀胱の内面を覆う尿路上皮細胞からは化学的防御因子としての物質が分泌されています。ここに異常があると尿中物質(カリウムなど)が尿路上皮の下の組織に浸透して炎症や知覚神経刺激などを引き起こし、その結果症状が出現するという仮説です。
 診断で重要なのは、まずこの疾患を疑うことです。検尿や血液検査、超音波検査では異常がありません。最終的には膀胱鏡が必要になります。間質性膀胱炎であれば特徴的なハンナ病変を認めます(というよりハンナ病変を認めた場合に間質性膀胱炎という診断になります)。ハンナ病変については難しいのでここでは詳述しません。ハンナ病変がなければ膀胱痛症候群という診断になります。そして尿細胞診という、尿中に癌細胞がないかどうかの検査が必須です。それは、ハンナ病変のように見える変化が特殊な膀胱癌である場合があるからです。
 治療にはこれまで難渋してきました。内服薬としては、経験的にアレルギー性鼻炎に使用する薬剤を多く使用してきましたが、これが無効の場合はなかなか次の手がありませんでした。手術としては、麻酔下に「ハンナ病変」を経尿道的に電気焼灼するハンナ病変焼灼術、あるいは膀胱内にゆっくりと生理食塩水を入れる膀胱水圧拡張術がありますが、限られた施設でしかできません。しかし2021年にジメチルスルホキシド(DMSO)という薬剤を膀胱内に注入する治療が認められました。2週間隔で6回、50mlのDMSOを膀胱内に注入します。今後期待されている治療法です。
 次回は前立腺癌の新しい治療薬についてです。